とち姫ものがたり

純粋な思いが食卓の笑顔を作る


この物語は、ひとりの若き女性が米作りに挑むお話です。

きっかけ

彼女の実家は農家でもない平凡な家庭、しかし食好きな彼女は大好きな白米を自分で作ろうと決めました。そのきっかけは二つ、当時全国の金賞米などを取り寄せ食べるのが楽しみだったのですが、中々納得の美味しさに出会えません。ある時、試食ができるコンテスト会場へ出向き試食を食べ表彰された農家のお米を後日取り寄せ食べてみるのですが、なぜかコンテスト会場で食べた感動がないのです。

なぜだろう?

この謎を解くために生産者へ突撃訪問し「コンテスト会場で食べた味とちがうんだけど?」と質問を投げかけます。生産者のおじいちゃんは「ほぉ〜よく分かったな、それはな…」と、若い女性には警戒心もなく丁寧に答えてくれました。

昔から米農家には屋敷米と言って自分たちが食べる米を贅沢に特別に作っています。実は、コンテストへはこの屋敷米を出品し名前を売り、実際に流通、販売されるのは、採算が取れるビジネス用の田んぼの米となっている事実を聞かされました。この時「大人は信用できない‥自分で作れば安心だ、自分で作ろう!」と決心したのです。
また、ある日、食が細くなった祖母が「量は要らないけど美味しいお米が食べたいもんだね〜」と何気なく言った言葉が妙に心に刺さり米作りの決意を後押ししたのでした。

つまりとち姫の原点は、自分の為にちゃんと作ること、そして家族や仲間のおいしい笑顔が見たいから。この想いは16年前から現在まで変わることなく続いています。

田んぼ1枚からの米作り
もちろん田んぼもなにもありません、まずは協力して頂く生産者探しから始まりました。場所は以前から決めていたので1軒1軒農家をまわりお願いしていくのですが、若い女性が農家を突然訪問するのに、新手の詐欺じゃないか?などと疑われながらも今の生産者を見つけました。もちろん自分で食べるだけですから田んぼ1枚分の生産をお願いしたのです。最初の2~3年は主に土壌改良に努めながら、時間を見つけては有名な米農家のおじいちゃんに米作りのノウハウを教わりに行きました。若い女性だからか?惜しむことなく色々と伝授してくれるのです。


しかし、米作りはそんなに甘いものではありませんでした。
毎年毎年、試行錯誤しながら色んな方法を試します。完全無農薬の有機栽培にも挑戦しましたが雑草が半端なく米自体の栄養も取られてしまい良くありませんでした。現在は除草のためやむなくほんのわずか農薬を使用していますが毎年自主検査にて残留農薬は無く安心して召し上がれます。またとち姫は有機肥料100%で育てており有機栽培米としてJASの認定を受けたいところですが、周辺の田んぼも同様に有機肥料100%でなければ認められないルールがあり断念しました。また、とち姫は水にもこだわり専用の井戸を掘り地下100mの地下水にて育てます。なぜなら既存の用水路を使い隣接した田んぼの農薬や化学肥料が入り込むのを防ぐためです。その成果のひとつ、毎年収穫前の田んぼを見渡すと、とち姫の田んぼにはトンボや虫がたくさんいるのですが、となりの田んぼにはほとんどいないことに気付きます。虫たちは正直です。一般的に苗と苗の間隔は30cm位ですが、とち姫は50cmと贅沢な間隔で通気を良くし病気の予防と株を大きく(栄養を十分に与える)育てます。収量は少なくなりますが一株一株に栄養が行き渡り元気に丈夫に育ちます。その証拠に台風のあとでも稲が倒れることはありません。またとち姫は遅植え遅刈りが基本です。一般的には人手の問題があり5月の連休に合わせ田植えが始まりますが、これは人間の都合によるものです。とち姫はお米ファーストであるため、その年の気候予測を考慮しながら2週間程度遅く田植えをするのですが、これは一番の成長時期と真夏の猛暑が被らないようにするための方策です。

有機肥料100%、専用の地下水、間隔を空け植えすぎないこと、遅植え遅刈りなど譲れないこだわりです。

しかし一般の米農家さんの立場ではしょうがない部分はあります。農協の買取価格が安いこと、これではビジネスとしては成り立たず補助金にたよるしかなく、やりたいこともできません。だからと言って化学肥料での不自然な農作には賛成できません。やはり一番大切なのは土作り、土壌を肥やすことだと思います。残念ながら化学肥料を使うことは土作りの全てを台無しにする真逆の手段で健康被害も心配です。また農協では同品種の米はすべて混合し出荷します。同じ品種でも田んぼによって全然違うものなのに…ですね。

とち姫の理念は、ちゃんと育て食卓の笑顔を作ること。


ひたすら理想の土壌作りにこだわる中、ようやく理想に近づいた10年目位からコンテストでも受賞するようになりました。

受賞歴
2009・11・14・15・16・17・20年 ベストファーマー認定
2013年「⽶-1グランプリ」入賞
2014・2016年「すし⽶コンテスト国際⼤会」特Aランク受賞
2016年「⽇本⼀おいしい⽶コンテスト」⾦賞
2017年「とちぎ⽶-1コンテスト」⾦賞
2017年「⽶・⾷味分析鑑定コンクール国際⼤会」都道府県代表 ⾦賞
2020年「第17回⽇本⼀おいしい⽶コンテストinしずおか」入賞

これは受賞歴をひけらかす為に並べているわけではありません。有名なコンテストでは機械による数値評価によって入賞が決まります。成分の含有量を数値化し決まるのですが、実は化学肥料で育てたお米の方が機械測定では高い点数が出やすいのです。したがってこの手のコンテストでは有機肥料のみで育ったお米は不利なのですが、それでもとち姫は入賞や金賞を頂いているので頑張っている方だと言えます。中でも2016・2020年の日本一おいしい米コンテストは、実際に審査員が食し決める大会ですから喜ばしいことです。しかしこれらのコンテストにはアンフェアな大人の都合が入った審査があるとかないとか実しやかにささやかれる噂が後を絶ちません。これはどの業界にも共通することなのかもしれませんね。

全国で実直に米作りに励む農家さんは沢山いらっしゃると思いますが、きちんと評価されるかは難しいのかもしれません。ビジネス上手=美味しいお米、となってしまいますから、よく目を凝らして本物を目指す農家さんを探してみてください。

お米選びの基準は人それぞれの好みによって違います
日本酒と同じように自分の好みの味を選ぶことがベストです。とち姫を初めて食べた方でたまに“味が物足りない”と言う方がいらっしゃいます。その方が普段食しているお米を教えて頂き分析するのですが、おそらく味が物足りないと感じる原因は一般的な化学肥料の旨味に慣れてしまっているからだと思います。よくお声を頂くのがとち姫を食べつくし元のお米に戻った時にとち姫との違い、とち姫ならではの自然な旨味に気付くと言われます。化学調味料など人工的な旨味が蔓延している社会ですが、私たちは自然な旨味を素直に受け入れ、化学的な旨味に対してはストレスを感じる、本物を嗅ぎ分ける能力が備わっているはずです。一つ私なりの感覚ですが、自然な旨味は長く咀嚼し続けられるのですが、化学的な旨味は長く噛んでいられません。食品の世界にも、本物とフェイクが混在しており習慣によっては見分けがつき難くなっているものです。

とち姫の美味しさに出会うと日常に楽しみが増えます。
先ずはとち姫とマッチングさせるおかず探し、今まで素通りだった情報も楽しみの一つとなります。これはお米の多様性のお陰です。淡白なお米には肉・魚・野菜など色んな食材がマッチします。近年フランスでは日本の弁当文化が流行り定着しているようですが、ご飯はパンと違って、肉でも魚でも野菜でも何でも合わせられるから、おかずの種類が豊富にできるし、健康的な食材を合わせやすいのが良いところなのだそうです。日本人には当たり前すぎて改めて気づかされます。

次にこの感動を誰かと共有しようと考えます。この誰かと一緒に食事をとるということは、脳にとっては重要な意味があることが分かってきています。食を分かち合う時、体の中ではある特別な物質が働いていることが突き止められました。その物質とは、脳から放出される「オキシトシン」というホルモン。別名「愛情ホルモン」、相手への愛情や信頼感を強める働きをしています。家族や仲間と食べ物を分かち合う時は「一人で食べるとき」に比べ5倍の量に達します。これはお米に限ったことではないのですが、先ほど述べたようにお米の多様性がより食卓の楽しみに貢献していることは間違いありません。

『「食を分かち合う」とは、互いの絆を強めることです。それによって、仲間を増やせるだけでなく、共に助け合って生きていけるようになります。食を共にすることで絆を育むこの仕組みは、人類の繁栄にとって非常に重要なのです。』

誰かと共に食べることで、脳が反応し、互いの絆を深めてくれる。そう思うと、何だか誰かを食事に誘いたくなりませんか? ただし、食卓には自然な美味しさを持つ本物の食材を並べてくださいね。